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- 信頼性への取り組み: IBMの歴史ページ、海外の技術メディア(Notebookcheck・ComputerBase・Gizmodo)、英語版Wikipedia、日本のPC Watchの原文を読み比べて書いた。1992年当時の雑誌レビューは、英語版Wikipediaに出典つきで引用された部分を使っている。資料ごとに数字が違うものは両方を書いた。使った資料は記事の最後に一覧にした。
ThinkPad 700Cは、1992年に出た初代ThinkPadである。10.4型のカラー液晶、キーボードの真ん中の赤いTrackPoint、黒い箱のデザインで、当時の雑誌のレビューと賞を次々に取った。この記事では、700Cの基本の仕様と、なぜ歴史に残ったのか、当時と今のレビューで何がほめられているのかを、海外の資料と動画を中心にまとめた。
- 1992年10月5日にアメリカで発表された。価格は4,350ドルで、当時のノートとしては最上位の機種だった
- 当時のレビューでほめられたのは「画面」「キーボード」「デザイン」。弱点として挙がったのは、重さと大きさ、価格、バッテリーだった
- 日本では「ThinkPad」の名前では売られなかった。同じ中身の機種が「PS/55note C52 486SLC」として1992年10月20日に出た
700Cのスペック(仕様)
700Cの主な仕様は次のとおり。同じ日に、9.5型の白黒液晶を載せた下位の「700」(2,750ドル)も発表されている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表 | 1992年10月5日(アメリカ) |
| 日本での発売 | 1992年10月20日(「PS/55note C52 486SLC」として) |
| CPU | IBM 486SLC(25MHz)。のちに50MHzの486SLC2へのアップグレードも出た |
| メモリ | 4MB(8MB・16MBも選べた) |
| 画面 | 10.4型 TFTカラー液晶(640×480、256色)。当時のノートで最大のアクティブマトリクス液晶 |
| 記憶装置 | 120MBのHDD(取り外せる)、3.5インチのフロッピードライブ(前から入れる) |
| 拡張 | IBM独自のMCA(マイクロチャネル)方式 |
| ポインティング | TrackPoint(赤いスティック) |
| バッテリー | ニッケル水素。IBMの公称で約4時間、ふだんの使い方で約3時間半とする資料もある |
| 大きさ | 約297×210×55mm(レターサイズの紙とほぼ同じ面積) |
| 重さ | 約3.4kg(7.6ポンド) |
| 価格 | 4,350ドル(アメリカでの発売時) |
| デザイン | リチャード・サッパー |
出典:IBM History、英語版Wikipedia、大きさはComputerBase、バッテリーの実測値はOLD-COMPUTERS.COM、日本での発売日はPC Watch。仕様は構成によって違う。日本での価格は確かめられる資料が見つからなかったので書いていない。
実物の姿は、Lenovoが25周年に公開した公式動画で見られる。黒い箱の形と赤いTrackPointがよく分かる。
700Cが歴史に残った理由
700Cより前にも、ノートパソコンはたくさんあった。Notebookcheckは「700Cはノートを発明したわけではないが、新しい基準をつくった」と書いている。その理由は、次の5つにまとめられる。
- 当時のノートで最大の、10.4型カラー液晶
- 手をキーボードから離さずに使えるTrackPoint
- 黒い弁当箱のデザインと赤いTrackPoint
- 今も続く「ThinkPad」という名前
- 発売2か月で10万台の注文。IBMのパソコン事業を立て直した
1. 当時いちばん大きく、きれいな画面
当時のノートは、9.5型の白黒液晶がふつうだった。700Cは10.4型のカラー液晶を載せ、ノートとしては最大のアクティブマトリクス液晶だった。Notebookcheckは「今から見ると不思議だが、最初のThinkPadでいちばん大事だったのは画面で、それがIBMの成功を約束した」と書いている。当時のレビューで最もほめられたのもこの画面である。
2. 手を離さずに使えるTrackPoint
キーボードの「G」「H」「B」の間に、マウスの代わりの小さなスティックを置いた。考えたのはテッド・セルカーである。キーボードからマウスに手を移すだけで0.75秒かかるという研究をもとに、1984年にゼロックスのパロアルト研究所で試作し、その後IBMで改良した(英語版Wikipedia「Pointing stick」)。
Gizmodoによると、最初の試作はキーボードの真ん中にくぎを打っただけのもので、指ざわりを確かめるのに鉛筆の消しゴムを使ったという。こうしたスティックを製品として初めて載せたのが1992年のThinkPad 700シリーズである。Notebookcheckは「ThinkPadのために発明されたものではないが、本当の意味で使われ始めたのはThinkPadだった」とまとめている。TrackPointの使い方はTrackPointの記事でくわしく書いた。
3. 黒い箱のデザイン
当時のパソコンは白やベージュが当たり前だった。デザインを担当したリチャード・サッパーは「外からは何なのか分からない黒い葉巻の箱のようなものにしたかった。開けたときに驚きがある」と語っている(IBM History)。ComputerBaseによると、黒には画面を明るく見せるねらいもあった。
箱の形は、日本の弁当箱がもとになっている。PC Watchの20周年の連載では、松花堂弁当の箱をもとに、大和研究所の山崎和彦氏が発案したと書かれている。サッパー本人も弁当箱から着想を得たと語っている(Notebookcheck、ComputerBase)。
赤いTrackPointにも話がある。IBMの社内では、赤は大型コンピューターの「緊急停止ボタン」の色で、製品に使えなかった。サッパーは黒に映える赤にこだわり、IBMのデザイン責任者トム・ハーディーが「マゼンタ」という名前にして社内を通した(Gizmodo)。
4. 「ThinkPad」という名前
名前は、IBMの社員や取引先に配られていた「THINK」と書かれたメモ帳から来ている(IBM History)。PC Watchによると、名付けたのは当時のPC事業の責任者ブルース・クラフリン氏とされる。それまでのIBMなら「PS/2」に数字を続けた名前になるところで、Notebookcheckは「IBMの名付け方から大きく外れた一歩」と書いている。
実は「ThinkPad」の名前は、1992年4月に発表されたペンで使うタブレット「IBM 2521 ThinkPad」に先に使われていた。このタブレットは売れず、のちに700シリーズにそろえて「700T」と名前を変えている(英語版Wikipedia、Notebookcheck)。
ThinkPadが生まれるまでの社内の動きは、開発責任者の内藤在正氏の本を読んだThinkPadの誕生秘話の記事でくわしく紹介している。
5. よく売れて、IBMを立て直した
IBM Historyによると、700Cの価格は高かったが、ライバルの東芝の上位機より15%安かった。発売から2か月で10万台の注文が入り、最初の1年で10億ドル以上を売り上げた。IBMのパソコン事業は、2年で年1億2,000万ドルから30億ドルに伸びたという。ComputerBaseは「ThinkPadはIBMを会社の歴史で最大級の危機から救った」と書いている。
人気を物語る話もある。当時のブッシュ大統領が妻へのクリスマスプレゼントに700Cを買おうとしたが売り切れていて、IBMに電話して工場から直接ホワイトハウスに届けてもらったという(英語版Wikipedia、Notebookcheck)。
当時のレビューの評価
1992〜1993年の主なレビューと賞は次のとおり。元の雑誌は今は手に入りにくいため、英語版Wikipediaに出典つきで引用された言葉を訳した。
| 媒体 | 時期 | ほめた点 |
|---|---|---|
| PC Magazine | 1992年12月 | 「市場でいちばんのノート」「パッとしない携帯機が続いたが、IBMがついにやってのけた」 |
| InfoWorld | 1992年12月 | 10点中8.0。画面は「色が豊かで明るく、文字がくっきり」。キーボードは「しっかりした感触で反応が速い」 |
| BYTE | 1993年5月 | 「最も革新的なデザイン賞」に選んだ |
| Computerworld | 1992年10月 | 省電力の仕組み(APM 1.0)のおかげで、バッテリーが長くもつ |
| PC Computing | 1993年 | 年間MVPに選び「速さ、美しさ、実用性、そして優雅さを兼ねそなえた、はっきり抜きん出た製品」 |
出典:英語版Wikipedia(PC Magazine 1992年12月22日号、InfoWorld 1992年12月14日号、BYTE 1993年5月号、Computerworld 1992年10月12日号などを引用)、PC ComputingはIBM History。訳は当サイトによる。
IBMは発売後に「たくさんの賞を受けた」としており、OLD-COMPUTERS.COMは300を超える賞を受けたと書いている。並べてみると、画面・キーボード・デザインの3つでほめられた機種だったことが分かる。
一方で、弱点も書かれていた。英語版WikipediaがまとめたBYTEとInfoWorldのレビューでは、重さと大きさ、高い価格、バッテリーの短さが挙げられている。
海外レビューと動画の評価
30年以上たった今も、700Cは海外のメディアやYouTubeで取り上げられている。今の目で見たポイントをまとめた。
- Notebookcheck(ドイツ):画面・名前・デザイン・TrackPointがそろった「正しい時期の正しい製品」と評価。一緒に出た安い「300」は外部の会社が作り、初期不良が多かったが、700Cが大ヒットしたおかげでブランドが傷つかずにすんだ、とも書いている
- ComputerBase(ドイツ):700Cが「今も通用するビジネスノートの基準をつくった」と評価。当時のノートとしてはCPU・メモリ・HDDを後から交換しやすく、長く使えた点も挙げている
- Gizmodo(アメリカ):中身は何度も新しくなったが、黒い四角いボディと赤いTrackPointという形は20年近くほとんど変わっていない、と驚きをこめて書いている
- PC Watch(日本):30周年のインタビューで、Lenovoのデザイン責任者が「白っぽいパソコンばかりの時代に黒い弁当箱のデザインを選んだことは、業界に大きな影響を与えた」と語っている
実際に動かした様子は、動画で見るのがいちばん分かりやすい。ComputerBaseが「とても見る価値がある」とすすめている、技術チャンネルAt Techのレトロレビューである。700Cを実際に動かして、いろいろな面から紹介している。
動画は、YouTubeの埋め込み機能で紹介している。
今のレビューで共通して取り上げられているのは、黒い箱の形と赤いTrackPointが、今のThinkPadとほとんど変わらないことである。中身は古くても、見た目と使い方の基本が30年以上続いている点が、700Cが今も語られる理由になっている。
日本では別の名前だった
700Cの開発は、日本IBMの大和研究所(神奈川県)が中心になった。IBM Historyによると、内藤在正氏が大和研究所でチームをつくり、TrackPointやWindows 3.1、IBMが自社で作った486プロセッサーを組み合わせた次の機種を考えた。内藤氏は「ノートはほとんどの部品をデスクトップより小さくしなければならない。小さくすることは日本の文化に深く根づいている」と振り返っている。
ところが日本では、「ThinkPad 700C」の名前では売られなかった。PC Watchによると、日本で1992年10月20日に出たのは同じ中身の「PS/55note C52 486SLC」である。IBMのノートの名前として「PS/55note」がすでに日本で知られていたためで、日本でThinkPadの名前に変わったのは、1993年5月に発表された後継機「ThinkPad 720C」からである(PC Watch)。
700Cから今に残るもの
700Cは、上位機の流れの始まりでもある。700系はその後、720C・750C・755C・760C・770と続き、1998年の600を経て、2000年のT20からTシリーズになった。Notebookcheckによると、弁当箱の形は600で薄型に変わるまで、700Cの後継機すべてに使われた。今のT14やT16は、700Cのまっすぐな子孫と言える。
- 赤いTrackPoint:今もほぼすべてのThinkPadに載っている
- 黒いボディ:X1 CarbonやT14など、多くの機種が黒を基本にしている
- 大和研究所での開発:今も日本の研究所でThinkPadが開発されている(ITmedia PC USER)
2017年には、25周年の記念モデル「ThinkPad 25」が出た。昔ながらの7列のキーボードや青いEnterキー、色のついたロゴなど、初期のThinkPadを思わせる作りになっている。

写真:Ярослав2017/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons
1995年には、キーボードが左右に広がる「バタフライ」のThinkPad 701Cが登場した。
Tシリーズがどう続いてきたかはTシリーズの歴代モデルに、各機種がいつ出たかはThinkPad発売日一覧にまとめている。
700Cは今も手に入る?
700Cは30年以上前の機種なので、今は実用ではなく、コレクションとして手に入れるものである。中古で出回る数はとても少なく、バッテリーや液晶が傷んでいるものも多い。動くかどうか、付属品がそろっているかを、写真と説明でよく確かめたい。
なお、700Cにはほとんど知られていない「IBMベージュ」の色もあった(英語版Wikipedia)。次の動画は、その珍しいクリーム色の700Cを紹介している。
同じころの名機と、その理由はThinkPadの歴代名機11選で紹介している。
今のThinkPadで選ぶなら
700Cの「最上位の主力機」という立場を今受けついでいるのは、14型のT14と、薄型で軽いX1 Carbonである。今日の公式価格は次のとおり。
どちらを選ぶか迷ったら、Tシリーズの比較やX1 Carbonの世代比較を見てほしい。
よくある質問
- ThinkPad 700Cの発売日はいつですか?
-
1992年10月5日にアメリカで発表された。日本では「ThinkPad」の名前ではなく、同じ中身の「PS/55note C52 486SLC」として1992年10月20日に出た。
- 700Cと700の違いは何ですか?
-
700Cは10.4型のカラー液晶、700は9.5型の白黒液晶を載せた機種である。価格は700Cが4,350ドル、700が2,750ドルだった。
- 700Cは世界初のTrackPoint搭載ノートですか?
-
そうである。テッド・セルカーが考えたスティック型のポインティング機器を、製品として初めて載せたのがThinkPad 700シリーズである。
- 当時のレビューではどう評価されましたか?
-
PC Magazineに「市場でいちばんのノート」と書かれ、InfoWorldで10点中8.0、BYTEで最も革新的なデザイン賞を受けた。ほめられたのは画面・キーボード・デザインで、重さと価格、バッテリーが弱点とされた。
- 700Cは誰がデザインしましたか?
-
IBMのデザイン顧問だったドイツ出身のリチャード・サッパーである。弁当箱をもとにした形は、大和研究所の山崎和彦氏の発案とされる。
- 700Cは今でも使えますか?
-
動く個体はあるが、30年以上前の機種なので、今のWindowsやインターネットには使えない。コレクションとして楽しむものと考えたい。
まとめ
ThinkPad 700Cは、1992年に出た初代ThinkPadである。当時最大のカラー液晶、赤いTrackPoint、黒い弁当箱のデザインで、PC MagazineやBYTEなどのレビューと賞を次々に取り、発売2か月で10万台の注文を集めた。弱点は重さと価格、バッテリーだった。日本では「PS/55note C52 486SLC」の名前で売られ、ThinkPadの名前は1993年の720Cから使われた。
赤いTrackPointと黒いボディは、今のT14やX1 Carbonにもそのまま残っている。歴代のThinkPadの流れは、ハブの記事でまとめて見られる。

参考にした資料
この記事は、次の資料の原文を読んで書いた。1992〜1993年の雑誌レビュー(PC Magazine・InfoWorld・BYTE・Computerworld)は原本を確認できなかったため、英語版Wikipediaに出典つきで引用された内容を使っている。
海外の資料
- IBM History「ThinkPad」
- Wikipedia(英語)「ThinkPad 700」
- Notebookcheck「A look back at 25 years of ThinkPad notebooks, Part 1」(2017年)
- ComputerBase「IBM ThinkPad 700C」レトロ記事(ドイツ語、2020年)
- Gizmodo「Behind the Design of the IBM ThinkPad」
- OLD-COMPUTERS.COM「IBM ThinkPad」
- Wikipedia(英語)「Pointing stick」
- Wikipedia(英語)「Ted Selker」
日本の資料
- PC Watch・笠原一輝「ThinkPad 30周年」コラム(2022年)
- PC Watch「ThinkPad 20周年」連載(2012年)
- ITmedia PC USER「変わらず、変わってきたThinkPad」(2021年)



