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- 信頼性への取り組み: 英語版Wikipedia(当時の雑誌やIBMの資料を出典に持つ)、IBMの歴史ページ、Notebookcheck、日本のITmedia・PC Watchの原文を読み比べて書いた。1995年当時の雑誌レビューは、英語版Wikipediaに出典つきで書かれた部分を使っている。資料ごとに違う数字は両方を書いた。写真はWikimedia Commonsの自由に使えるライセンスのもので、撮影者とライセンスを写真の下に書いた。
ThinkPad 701Cは、1995年に出たIBMの小型ノートである。ふたを開けると、2つに分かれたキーボードが左右に広がり、本体より大きなフルサイズのキーボードになる。その動きから「バタフライ」と呼ばれ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵された。この記事では、701Cの仕様と、歴史に残った理由、当時と今のレビューの評価を、海外の資料と動画、写真でまとめた。
- 1995年3月に発売され、その年の12月に販売を終えた。1年足らずで消えたが、1995年にいちばん売れたノートと言われる
- レビューでほめられたのは、小さな本体でも打ちやすいキーボード。弱点は、独自形式の端子と、すでに古くなりつつあった486のCPUだった
- 液晶の違いで2種類ある。TFT液晶の「701C」と、安いDSTN液晶の「701Cs」である

写真:Mikebabb(英語版Wikipedia)/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons
701Cのスペック(仕様)
701シリーズの主な仕様は次のとおり。CPUと記憶容量で、いくつもの構成があった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発売 | 1995年3月6日(アメリカ) |
| 販売終了 | 1995年12月21日 |
| 種類 | 701C(TFT液晶)、701Cs(DSTN液晶) |
| CPU | Intel 486DX2(50MHz)または486DX4(75MHz) |
| メモリ | 4MB〜最大40MB |
| 記憶装置 | 360MB・540MB・720MBのHDD |
| 画面 | 10.4型(640×480)。701CはTFT、701CsはDSTN |
| キーボード | TrackWrite(バタフライ)。開くと幅29.2cm、キーピッチ19mm |
| 大きさ | 約247×201×44mm(閉じたとき) |
| 重さ | 約2.25kg(英語版Wikipedia) |
| OS | PC DOS 6.3+Windows 3.11。DX4の機種はOS/2 Warpも |
| 価格 | 1,499〜3,299ドル(アメリカ、構成と時期による) |
| デザイン | ジョン・カリダス、サム・ルセンテ、ロバート・テナント(全体はリチャード・サッパー) |

写真:tomislav medak/CC BY 2.0/Wikimedia Commons
出典:英語版Wikipedia(IBMの資料「Personal Systems Reference」などを出典にしている)、大きさとキーピッチはITmedia PC USER。日本での価格は、ITmediaが「75万円」と書いている。
キーボードが広がる様子は、Lenovoが公開した公式動画がいちばん分かりやすい。
701Cが歴史に残った理由
701Cは、1年足らずで販売を終えた機種である。それでも今も語りつがれるのは、次の5つの理由がある。
- 小さな本体に、本体より大きいフルサイズのキーボードを載せた
- 子どもの積み木から生まれた、誰も見たことのない仕組み
- 1995年にいちばん売れたノートになった
- 27のデザイン賞を受け、MoMAなどの美術館に収蔵された
- 後継機がなく、この1機種だけで終わった
1. 小さな本体に、大きなキーボード
1990年代の前半、小型ノートは本体が小さいぶん、キーボードも小さく窮屈だった。キーボードを考えたIBMの技術者ジョン・カリダスは、「ノートの大きさを決めているのはキーボードの幅だ」と考えた(英語版Wikipedia)。
701Cの本体の幅は24.6cmしかない。キーボードは2つの三角形に分かれていて、ふたを開けると左右に広がってかみ合い、幅29.2cmのフルサイズのキーボードになる。閉じると逆の順番で本体に収まる。動きは画面のちょうつがいのカムでつながっていて、ふたの開け閉めといつも一緒に動く。

写真:Mikebabb(英語版Wikipedia)/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons
ITmediaは、分かれて動くキーボードなのに、キーの深さや打ち心地は「ThinkPad水準」だったと書いている。キーピッチは、デスクトップのキーボードと同じ19mmである。

写真:Thomas Cloer/CC BY-SA 2.0/Wikimedia Commons
2. 積み木から生まれたアイデア
このアイデアは、カリダスが幼い娘の積み木で遊んでいたときに生まれたと伝えられている。2つの三角形の積み木が、すべるようにずれて形を変えるのを見て思いついた、という話である(Fast Company、Newsweekなどの報道)。
英語版Wikipediaによると、1993年の春にキーボードをコピーした紙で形を確かめ、夏には透明なアクリルの試作機を作った。製品化が決まったのは1993年の秋である。キーボードの名前は、正式には「TrackWrite」という。
3. 1995年にいちばん売れたノート
701Cは発売直後から注文が多く、IBMは作るのが追いつかなかった(ニューヨーク・タイムズ、1995年3月)。ビジネスウィークは、701Cを1995年にいちばん売れたノートだったと書いている(英語版Wikipediaより)。
4. 27のデザイン賞と美術館
701Cは27のデザイン賞を受けた。今は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ドイツ・ミュンヘンの「ノイエ・ザムルング」、アメリカのコンピューター歴史博物館に収蔵されている。1995年の映画『007 ゴールデンアイ』や『ミッション:インポッシブル』にも登場した(英語版Wikipedia)。
5. 後継機のない、一代限りの機種
701Cは1995年12月21日に販売を終えた。IBM Historyは「開発が遅れ、発売されたころには、ノートの画面はフルサイズのキーボードが入るほど大きくなっていた」と書いている。開発の遅れで、CPUも新しいPentiumではなく486になった。
画面が大きくなれば、キーボードを広げる必要はない。こうして仕組みそのものが要らなくなり、バタフライキーボードは701Cだけで終わった。一度きりで終わった美しい仕組みであることが、今も701Cが特別に見られる理由になっている。
「バタフライ」は正式名にならなかった
「バタフライ」は、IBM社内の開発コード名である。技術者たちはこれを正式な名前にしたかったが、IBMの法務部門は生き物の名前を製品に使うことを認めなかった(英語版Wikipedia)。
小型ノートの「500」シリーズの名前は、前の機種が売れなかったので避けた。「600」は別の機種のために取ってあったため、本来は上位機の番号だった「700」番台の「701」になったという。発表の前には、新聞の紙面のすみにチョウの絵だけを載せる広告を出し、数日ごとにIBMのロゴや「発表を待て」という文字を足していった。
当時のレビューの評価
1995年の主なレビューと評価は次のとおり。元の雑誌は今は手に入りにくいため、英語版Wikipediaに出典つきで書かれた内容を訳した。
| 媒体 | 時期 | 評価 |
|---|---|---|
| InfoWorld | 1995年3月 | フルサイズのキーボード、大きな画面、内蔵のマルチメディア機能。独自形式の端子は弱点とした |
| PC Magazine | 1995年3月 | 記事の見出しは「ノートの未来が広がる」 |
| InfoWorld | 1995年 | 「1995年の製品」(小型ノート部門)に選んだ |
| ウォルト・モスバーグ | のちの回想 | 「今までレビューした中で、いちばん変わっていて、いちばん賢いノート」 |
| Domus(2019年) | 振り返り | 「20年以上たった今も、開け閉めするのを見た人はみな驚く」 |
出典:英語版Wikipedia(InfoWorld 1995年3月6日号、PC Magazine 1995年3月14日号、The Verge 2017年、Domus 2019年などを引用)。訳は当サイトによる。
どのレビューも、小さな本体で、ふつうのノートと同じように打てるキーボードをいちばんにほめている。一方で弱点として挙がったのは、拡張に独自の端子が必要なことと、CPUが486で、すぐにPentiumの機種に追い越されたことだった。英語版Wikipediaは、IBMの社史をもとに「新しい仕組みは評価されたが、製品全体としては競争力が足りなかった」とまとめている。
海外レビューと動画の評価
701Cは今も、海外のメディアやYouTubeで取り上げられ続けている。今の目で見たポイントをまとめた。
- Notebookcheck(ドイツ):シリーズでいちばん有名な機種の1つと評価。キーボードを小さくするのではなく、手のこんだ仕組みで客の望みに応えた点を挙げている
- IBM History(アメリカ):701Cを「最も称賛されたデザインの1つで、発表と販売終了が同じ年だった」と紹介している
- ITmedia(日本):キーボードの動きの見た目のインパクトと、日本での75万円という価格が注目を集めたと書いている
- PC Watch(日本):開発責任者の内藤在正氏が「今は10型クラスのモデルがないので出番がなく、休眠中の技術」と笑って語っている
海外のYouTubeでは、レトロPCの人気チャンネルが実機を紹介している。LGRは「伝説の仕組み。小型ノートの持ち運びやすさと、ふつうのThinkPadのフルサイズのキーボードを両方かなえた」と紹介している。
This Does Not Computeは、1995年のCIO誌やPC Magazineの記事を出典に、701Cが生まれた背景をまとめている。
動画は、YouTubeの埋め込み機能で紹介している。紹介文は各動画の説明欄をもとにした。
今のレビューで共通して取り上げられているのは、キーボードが広がる動きそのものの面白さと、それが1機種だけで終わった物語である。性能では語られない機種だが、「見た人がみな驚く」という評価は30年たっても変わっていない。
どこで開発されたのか
701Cは、700Cのように日本の大和事業所が中心になった機種ではない。ITmediaは「開発を行ったのは大和事業所ではなく米IBMのワトソン研究所」と書き、PC Watchも「ラーレイ開発製品として知られている」と書いている。英語版Wikipediaは、ラーレイ近くの工場と大和の開発拠点の共同プロジェクトだったとしている。
キーボードを考えたカリダスは、IBMのヨークタウン研究所のメカの技術者だった(PC Watch)。カリダスはのちに大和研究所に2か月ほど常駐し、内藤氏に「なぜThinkPadは前も後ろも同じ厚さなのか。前を薄くすればキーボードが打ちやすくなる」と提案した。これが、今の多くのノートが採用している「くさび型」のデザインにつながったという(PC Watch)。
初代ThinkPadの700Cについては、ThinkPad 700Cの記事でくわしく書いている。
701Cから今に残るもの
バタフライキーボードは、その後のThinkPadには一度も載っていない。それでも701Cは、ThinkPadの歴史の中で特別な機種として扱われ続けている。
- 10周年のプラモデル:2002年、日本IBMは701Cの65%サイズのプラモデルを作り、イベントや製品の購入者に配った
- 復活の試み:IBMとLenovoのデザイナー、デビッド・ヒル氏は、バタフライを復活させようとしたができなかったと語っている
- 2021年の特許:Lenovoが701Cに似たキーボードの特許を出願し、復活かと話題になった(Notebookcheck)
- ファンによる改造:2023年には、701Cの中身を最新のFramework Laptopの基板に入れかえた改造も話題になった
出典:プラモデル・復活の試み・改造は英語版Wikipedia。
翌1996年には、本体をA4サイズにして厚さ約3cmまで薄くしたThinkPad 560が出た。小ささと打ちやすさの両立に、701Cとは別の答えを出した機種である。
ThinkPadの名機を他の機種と並べて見たい人は、ThinkPadの歴代名機11選も読んでほしい。
701Cは今も手に入る?
701Cは30年前の機種なので、今は実用ではなく、コレクションとして手に入れるものである。人気が高いぶん、きれいな個体は値段も高い。キーボードがスムーズに広がるか、ちょうつがいが割れていないか、液晶が映るかを、写真と説明でよく確かめたい。
海外では、レストアの部品や手順をまとめたサイト「Project Butterfly」もある。運営者のpolymattは、701Cを分解から塗装までやり直す動画を公開している。
今のThinkPadで選ぶなら
701Cの「小さくて持ち歩きやすいのに、キーボードは打ちやすい」という考え方を今受けついでいるのは、13.3型のX13と、14型で1kgを切るX1 Carbonである。今日の公式価格は次のとおり。
くわしくは、X13 Gen7のレビューやX1 Carbonの世代比較を見てほしい。
よくある質問
- ThinkPad 701Cの発売日はいつですか?
-
1995年3月6日にアメリカで発売された。販売は同じ年の12月21日に終わっている。
- 701Cと701Csの違いは何ですか?
-
液晶の種類が違う。701Cは画質の良いTFT液晶、701Csは安いDSTN液晶を載せている。キーボードの仕組みは同じである。
- なぜ「バタフライ」と呼ばれるのですか?
-
ふたを開けるとキーボードがチョウの羽のように左右に広がるからである。「バタフライ」はIBM社内の開発コード名で、正式な名前はThinkPad 701、キーボードの名前は「TrackWrite」である。
- なぜ1年で販売が終わったのですか?
-
開発が遅れ、発売したころには画面の大きなノートが増えて、キーボードを広げる必要がなくなったためである。CPUも486で、Pentiumの機種にすぐ追い越された。
- 701Cのプラモデルはありますか?
-
2002年のThinkPad 10周年のときに、日本IBMが65%サイズのプラモデルを作った。イベントや製品の購入者に配られたもので、市販品ではない。
- 701Cは今でも使えますか?
-
動く個体はあるが、30年前の機種なので、今のWindowsやインターネットには使えない。コレクションとして楽しむものと考えたい。
まとめ
ThinkPad 701Cは、1995年に出た小型ノートである。ふたを開けるとキーボードが左右に広がる「バタフライ」の仕組みで、小さな本体にフルサイズのキーボードを載せた。1995年にいちばん売れたノートになり、27のデザイン賞を受け、MoMAに収蔵された。
一方で、開発の遅れと画面の大型化で仕組みが要らなくなり、1年足らずで販売を終えた。後継機のない一度きりの仕組みであることが、今も701Cが名機として語られる理由である。

参考にした資料
この記事は、次の資料の原文を読んで書いた。1995年当時の雑誌レビューと、積み木の逸話を伝える海外の報道(Fast Company・Newsweek)は、この環境から原文を開けなかったため、英語版Wikipediaの出典と検索で確かめた内容を使っている。
海外の資料
- Wikipedia(英語)「ThinkPad 701」
- IBM History「ThinkPad」
- Notebookcheck「A look back at 25 years of ThinkPad notebooks, Part 1」(2017年)
- Notebookcheck「ThinkPad Butterfly: Lenovo might bring back foldable ThinkPad keyboard」(2021年)
- Fast Company「IBM ThinkPad 701 butterfly keyboard」
- Newsweek「Big Blue’s Butterfly」
日本の資料
- ITmedia PC USER「みなとみらいの大和事業所で『20世紀のThinkPad』と再会した」(2015年)
- ITmedia PC USER「日本の開発部隊が25年間情熱を注いだ“ThinkPad”の話をしよう」(2015年)
- PC Watch・笠原一輝「ThinkPad 30周年」コラム(2022年)
- PC Watch「ThinkPad 20周年」連載(2012年)
動画
- YouTube「Thinking Laterally ThinkPad 701c (1995)」(Lenovo公式、2017年)
- YouTube「IBM ThinkPad 701C: The Iconic Butterfly Keyboard」(LGR)
- YouTube「ThinkPad 701c: IBM’s Butterfly Laptop」(This Does Not Compute、2022年)
- YouTube「I completely restored an Iconic IBM ThinkPad 701C Butterfly laptop from 1995」(polymatt、2023年)



